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今回は体動センサを用いた見守り支援システム「眠りCONNECT」(以下、「見守り支援システム」という) 導入の経緯やその方法、効果について、特別養護老人ホーム杏樹苑爽風館の施設長である酒本隆敬様に伺いました。ご利用者様の睡眠改善だけではなく、介護職員の業務改善や心理的不安の解消につながったという支援システム導入のメリットと、独自の導入プロセスをご紹介します。

【社会福祉法人 杏樹会 グループホーム ほほえみ】

2019年3月に開設された地域密着認知症対応型共同生活介護事業所。
定員は2ユニット合計18名。
令和5年度に、埼玉県スマート介護モデル事業を実施。
職員の総数は17名で、入居者様の平均年齢は87.8歳、認知症日常生活自立度平均はⅢa。

見守り支援システム導入の背景

生産性の向上に対する意識

皆様は今年度の介護保険改定において生産性向上委員会の設置過程で厚生労働省が作成し、公表している、介護サービスにおける生産性向上に資するガイドラインをご覧になったことがありますでしょうか。

実際に私自身もそうであったように、「生産性の向上」というキーワードに対して、ヒューマンケア理論を重視する介護の現場に不似合いな言葉であるというイメージを抱かれる方も多いかと思います。
しかし、このガイドラインを見ていくと、「生産性」に対して、言葉のイメージからもたらされる表面的な先入観を持って考えてしまっている自分がいることに気が付きました。

そして、生産性の向上のために私たちがどのように見守り支援システムを活用したかをこれからご説明します。

見守り支援システム導入のステップ(準備期)

全体のプロセス

私たちは、見守り支援システムを適切に導入し定着させるために、約8か月をかけて9つのステップを実践しました。
そのプロセスがどのように進められ、生産性向上の一助をなしたかをお伝えしたいと思います。

ところで、皆さんのご施設では、「こんな介護ロボットがあったら便利なので欲しい!」といった思いだけで、ロボットありきの購入をしていませんか?

もしくは、補助金が出るので、それを使って話題性のあるロボットを導入することで現場を喜ばせようという、施設長さんや事務長さんの思いだけで購入されるといったことはないでしょうか。

以上のような導入においては、正しいステップを踏襲しない場合が多く、使用定着に失敗してしまうことも多いです。
実は、私たちの法人でも、私の「こんな介護ロボットがあればみんなが便利になるだろう」という単純な思いだけで導入を行ってしまいました。その結果、現場ではせっかくの機能をしっかりと活かしきれず、しばらくの間うまく運用ができない期間が生じてしまうなどの問題が発生し、使用定着に失敗してしまいました。

なぜそうなってしまったのか?
以下の2点が原因として挙げられると今は考えています。

  • 本来の現場におけるニーズと、私の考えや思いとの間にミスマッチが生じていた
  • ロボットを用いた業務改善のプロセスを現場に一任していた

では、現場と共に業務改善をするとしてどのような導入プロセスが必要なのでしょうか?
ここで、先ほどご紹介した9つのステップが活きてくることになります。

上図は、介護ロボット導入に際して実際に行った9つのステップに沿った改善の流れです。

まずは現場中心のプロジェクトチームを立ち上げ、組織として介護ロボット導入に向けて合意形成をしていきました。

そして、気づきごとから因果関係図を作成し、組織の課題を見える化していき、ロボットで解決できる課題とそれに対する打ち手を決定します。

その後、実際の施策実行に向けて機器のデモ選定、既存のオペレーションの見直しとマニュアルの作成を実施しました。

さらに、検討を重ねることで見えた不都合なオペレーションを再度見直し、リスクを分析したうえで必要な研修を全員に実施し、その後、試行的導入にて職員が使用を体験しました。

体験後は、職員が使用する際のムラを無くすため、機器が示すアイコンに沿ったアクションプランを作成し、導入を行います。

そのアクションプランが定着したところで、小さな成功体験を集めて共有していきます。
加えて、KPIを測定し、課題が改善したかどうかを見える化することで使用定着化を進めていきました。

準備期

ほほえみが目指すべき姿、取り組み開始時点での課題とそれに対する解決策の仮説、そしてその解決策として介護ロボットに求める機能の3点をまとめています。

課題を解決できる機器の導入と、自施設のオペレーション見直しによって目指すべき姿を実現することを試みています。

そして当施設の課題は、転倒事故予防の必要と、センサー、ナースコールの誤報による業務の煩雑さであると定めました。
この課題に対する施策を検討した結果、より正確な判定が望める見守りセンサー型介護ロボットの導入に動くことになりました。

まずは埼玉県社会福祉協議会様が実施している介護ロボット貸出事業のリストからいくつかの機体を検討してみることにしました。その中から、実機に触れてみたい機器を機能分析によって5つに絞り込み、メーカーの方にデモを実施していただきました。

【準備期に大切にしたこと】

準備期には、ロボットありきではなく、現場で実際に使用する人の声を多く取り入れることが大切であると思います。
実体験ですが、トップダウンでは温度差が生まれ、うまくいかないことが多いです。
介護ロボットの導入にも、職員同士の相互理解が重要になります。

見守り支援システム導入のステップ(導入前期)

準備期には緩やかな因果関係図を作成し、課題の見える化によってチームの中で認識の統一を行いましたが、その後は導入前期へと移行し、導入計画書の作成に取り組みました。

導入計画書には、今回の導入目的や意義はもちろん、チームメンバーとその役割や予想される機器とその特性、導入スケジュールやオペレーションの変更、KPIの測定目標など様々な事柄を記載していきます。

【導入機器選定フェーズ】

その後はいよいよ介護ロボットの選定フェーズに入り、デモ使用後に全職員にアンケートを実施しました。その結果、私たちの求める機能が合致していたことから、見守り支援システムの導入を決めました。

そして、機器購入後の試行的導入期間としてすべての職員に使い方研修を実施していくことになります。

以下がデモを実施した機器になります。実際にデモをしてみると、期待値との相違や使い勝手、求める機能等、様々な違いが見えてきます。

そして全スタッフに対してデモでの使用感をアンケートしてそれぞれの利点と改善点を見える化しました。これにより機器選定のための指標が明確になりました。

これに加えて使い勝手の良さに関するアンケートを職員に対して行いました。
こちらがアンケートの結果です。

得点が低いほど使い勝手が良いという条件のアンケートを行いました。
数値的にはどの機種も大きなアドバンテージは無いようにみえる結果でしたが、
離床センサーの反応速度、クラウドシステムによる旧世代と合わせた一括管理、自施設介護ソフトとのデータ自動同期などの要素を総合的に判断し、体動センサを用いた見守り支援システム「眠りCONNECT」の導入を決定しました。

※1社アンケート結果から抜けていますが、納期の問題で検討対象外となっています。

【試行的導入の準備】

職員の使用にあたっては使い方講習を、中心メンバーからすべての職員に実施しました。
職員の平均年齢が55歳と比較的高いため、このような機器の使用にあたってはアレルギー反応のようなものがあったので、中心メンバーが都度不明な点を洗い出し、
納得して使用できるように努めました。

【導入前期に大切にしたこと】

導入前期には、課題の見える化を中心手段として、実際現場は何に困っているのか、ということを現場のスタッフ全員や組織全体で共通認識として持っておくということが大切であると考えました。
全員が同じ課題に対して意見を発することで全体による合意形成につながっていきます。

そしてそれを解決する打ち手としてロボットの機能を考えていきますが、ここでも大切なのはやはり複数の観点から状況を俯瞰することであると考えています。
職員目線のみによる問題意識からプロジェクトを進めるのではなく、実際誰にとっての課題であるのかということを重視することが重要であると思います。

見守り支援システム導入のステップ(導入後期)

導入後期には、使用定着のために、小さな成功体験の共有が大切になります。
そのために、新たなオペレーションとして判断基準を標準化するアクションプランを作成
しました。
そしてそのアクションプランが定着し始めたところで、導入の成果を見える化するために
KPI(重要業績指標)を測定しています。

定着のポイント

【オペレーション・マニュアルの定着】

とはいえ、実際に機器の使用をするとなると、ネットワークカメラやスマホ端末との連携など、職員全員がすぐに使いこなすのは難しいと思われる工程もありました。

また、職員から様々な意見や不満、不安が聞かれることも危惧していました。

そこで、解決策として機器に慣れることが先決であると考え、使い方のレクチャーを
繰り返し行いました。
その中で職員全員が機器の扱いに慣れてくると同時に、職員が機器を用いる際の動きを標準化したアクションプランを新マニュアルとして使用しました。

また、マニュアルにある動きを伝える際は、その場で疑問・質問に回答することで導入に不安や不満がないように対応しました。

加えて、実際に表示されるアイコンの内容理解や、表示方法を見える化し、アイコンに対する行動基準を定めたうえでフローチャート化しました。
この工程によって、職員の経験則による判断のブレを少なくするという意図がありました。

【使用者の選定】

機器の使用と導入が決まると、次は使用者の選定も重要になってきました。多くの施設に共通する課題かと思いますが、予算上の制約により、全定員への導入が難しいのが現状です。

転倒した経緯がある方への対処や、転倒事故が起きてしまった際の対処について、ほとんどが現場の一部職員による判断で選定を行っていました。
要するに、多職種の知見や様々な情報、または科学的根拠に基づいた選定ではなかったということであり、とても反省しています。

そこで、施設におけるルールを作成しました。
独自に作成したアセスメントシートに沿って、ユニットの担当介護職員が入居者様のスコアリングシートを記載し、個々の転倒危険度を見える化した後、多職種間でカンファレンスを開催して選定するという内容です。

シートの内容は、転倒危険度、バーセルインデックスの数値、MMSEの数値等と、各ユニット全職員の意見をもとに、どの入居者様が機器の対象で、どこまでの機能を必要としているのかを総合的に判断するようになりました。

こちらは実際のアセスメントシートですが、転倒危険度を3段階に分けて見える化しています。

【ダッシュボード機能利用による活動量の可視化】

私自身は同一地区の別事業所にいることが多いため、ダッシュボード機能によって事業所内のユニットごとの活動量を把握しやすくなったと感じています。

また、個人、ユニット、事業所などのデータを回診時に主治医に報告することで、健康状態の把握や内服管理等活用データがスムーズに行われるようになりました。

【導入後期に大切にしたこと】

そして最終的に機器の使用定着のために大切になるのが小さな成功事例の共有です。
新しいものを導入するときには一時的に忙しい時期が訪れ、期待値との相違で介護現場においてパフォーマンスが低下するといったことが起こります。

これはどの現場でも普遍的に発生し得ることですが、現場のモチベーションを維持するには、少しでも「使ってよかった」と思えた小さな出来事を共有していくことが重要であると私は考えています。そしてそれが使用の定着に寄与するとも考えています。

実際の方法は至って簡単です。
申し送りノートに、使用した感想や不安など様々な意見を記入してもらい、それらを収集しました。皆の隠れた意見をしっかりと聞くことができる機会を持つことが肝要であると気づくことになるでしょう。
また、成功事例や失敗事例をもとにマニュアルやオペレーションを改善していく必要性も感じられるようになりました。

見守り支援システムの導入と生産性向上の関係性

ではなぜこの取り組みが介護現場における生産性の向上に寄与しているか、切り分けて見ていきたいと思います。

まず、「生産性の向上」という言葉を考えるときに、一般的にその管理や業務フローの改善を進めるにあたって排除すべき要素として挙げられるのが、3Mと呼ばれるものです。
それは…

  • ムリ
  • ムダ
  • ムラ

です。
介護の現場においても同様にムリ・ムダ・ムラが存在しており、この事柄について業務改善を図ることで生産性の向上を目指しましょうという機運が高まっています。
そこで、冒頭で提示したガイドラインにはこの業務改善の一助となることがたくさん詰まっているのです。

導入の成果:KPI(重要業績指標)の設定、測定

以上のような取り組みの中で、どのような改善が見られたかを可視化するため、KPIを設定し、図のような5つの重要業績指標を測定しました。
「成果について、今回は変化の大きかった2点に焦点を当ててご紹介します。」

【インシデント回数】

はじめに、インシデント回数についてです。
2か月目に入ってカメラの初期不具合による交換などもあって少し増加がみられます。
その後カメラが正常に戻り、インシデントの発生回数も減少しました。
結果として、導入前3か月と比較し、導入後3か月では発生回数が38%減となっています。

【夜間帯の訪室回数】

続いては夜間帯の訪室回数の比較です。
機器導入前は1夜勤で2ユニット合計平均80回ほど訪室をしていましたが、機器導入後は2ユニット平均65回ほどに減少し、20%減となっています。

これは、発報時に訪室の必要性を画像で確認できるようになったため実現できたと考えています。

まとめ

今回のように、見守り支援システムを活用することで、オペレーションを見直して業務改善を実現することができます。
またそのような業務改善によって機器使用の選定条件というムラをなくし、アクションプランの活用によって職員の経験による判断というムラをなくすことができます。
加えて、眠りSCANeyeの活用によって誤訪室というムダをなくし、心に余裕を持たせることで精神的負担であるムリをなくしていくという取り組みができたのではないかと考えています。

酒本 隆敬
特別養護老人ホーム 杏樹苑爽風館 施設長

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