「眠りSCAN」を用いた見守り支援システムで見えてきたケアのタイミング~見守り・排泄ケア・起床介助~
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今回は「眠りSCAN」を用いた見守り支援システム(以下、「見守り支援システム」という)導入の経緯やその効果について、社会福祉法人あけあい会 特別養護老人ホーム グリーンヒルの施設長である井山公秀様に伺いました。入居者様の睡眠改善だけではなく、介護職員の業務改善や心理的不安の解消、さらには人材確保にもつながったという見守り支援システム導入のメリットをご紹介します。
【社会福祉法人あけあい会】
1987年の法人設立から、設立35周年を迎える現在に至るまで、三重県津市、松阪市、多気郡大台町に複数の入所施設や通所施設を設置。
『愛情と誠意を基調とした福祉サービスに努める 』 という法人理念のもとに、800名ほどの職員が地域福祉に取り組んでおり、県内有数の社会福祉法人へと成長を遂げる。
【特別養護老人ホームグリーンヒル】
2018年に開設した定員60名のユニット型施設で、1階に2ユニット20名、2階に4ユニット40名が生活している。
平均介護度は4.2、看護師と介護士の常勤換算人数は33.3人、人員配置は1.8対1で、勤務は3交代制。
また、介護助手を2名雇用してリネン交換や掃除などを任せることで、介護士の業務負担を軽減し専門的業務に専念できるよう配慮。
なお、1階には定員30名のデイサービスや、職員の仕事と育児の両立を支援するため定員12名の企業主導型保育園を併設。
開設当初から見守り支援システムを導入している。

導入台数と設置環境
まずは、当施設が導入している眠りSCANの台数と設置環境についてご説明します。
当施設では開設と同時に全60ベッド(1階20台、2階40台)に眠りSCANを導入しており、各ユニットに設置したiPadや職員が携帯するナースコール受信端末のPHSと連携させています。
入居者様が覚醒・起き上がり・離床されたタイミングで、それらの端末に入居者様ごとにあらかじめ設定した画面表示や 通知が届くように設定しています。
また、端末用Viewerアプリのリアルタイムモニター画面 で、ベッド上での睡眠・覚醒・起き上がり・離床や、睡眠・呼吸数※・心拍数※ などを 確認することができます。
メリットも多いですが、導入初期には苦労もありました。
新規開設の施設であり、入居者様の行動や状態を十分に把握しきれていなかったため、通知の鳴る基準を低く設定していました。そのため、同時に通知 が鳴ることも多く対応に苦労しました。
そこで当施設では、入居者様ごとに通知設定を行うことで、同時に通知が鳴る事態を減らし、混乱も少なくなりました。
既存の施設に導入する場合も同様で、入居者様の状態をしっかりと把握したうえで設定することが重要です。
※呼吸・心拍に相当する体動から算出した推定値を、それぞれ呼吸数・心拍数と表現しています。
見守り支援システム 導入の目的と効果
当施設が開設当初から見守り支援システム を導入した目的は…
大きく分けて以上の3つです。
当法人の未導入の施設では課題が残っていますが、当施設では見守り支援システム導入により多くの課題が解決されています。
これからそれぞれの目的を設定した背景と、導入後の効果について説明します。
職員の業務負担軽減・効率化
【背景】
当法人の見守り支援システム 未導入施設においては、職員と入居者様双方において夜間の負担が大きいという課題がありました。
職員は2時間おきにすべての入居者様を巡視するというルールにしており 、歩行距離や歩行時間の長さによって身体的負担を負っていました。また、それと同時に入居者様が転倒していないか、急変していないか、などの心理的負担も負っていました。
このように職員の負担も大きいのですが、入居者様にとっても、寝ているところを起こされ、その後熟睡ができないという状況は負担になっていました。

【導入後の効果】
当施設のように見守り支援システム を導入した施設では、ポジティブな影響が見られました。
職員は夜間に常に巡視をし続ける必要がなくなり、離床・覚醒・起き上がりなどの通知があった際に効率的に巡視をするようになり、身体的負担が軽減しました。
また、iPadのViewerアプリ でベッド上の様子や呼吸・心拍などのデータを確認できるようになり、職員にとっての安心感にもつながっています。
さらに、巡視の効率化によって生まれた空き時間を活用して、これまで昼間に行っていた掃除や書類作成などの業務を夜間に行えるようになり、日中には入居者様と関わる時間が増えました。その結果、心理的な負担の軽減にもつながっています。

入居者様の転倒・転落の低減
【背景】
入居者様の転倒や転落の可能性は、職員にとっての心理的負担となり、特に夜間巡視などでは負担が大きくなります。転倒・転落の低減によって、入居者様の安全と職員の不安軽減の双方を達成することができます。
【導入後の効果】
入居者様ごとの状態に合わせて『覚醒・起き上がり・離床』に通知設定し、iPadやPHSが鳴ったら訪室するようにしたことで、転倒・転落予防のサポートがスムーズになりました。
実際に、当施設における、過去3年間の夜間帯(21時から翌朝7時)に発生した転倒・転落事故の平均発生率は、当法人の見守り支援システム 未導入施設に比べて9.1%低くなっています。


3.夜間の排泄介助を定時ケアから個別ケアへ
【背景】
当法人 の見守り支援システム 未導入施設においては、決められた時間に入居者様を起こして排泄介助をしていたため、トイレへ誘導する際の歩行が不安定になることがありました。睡眠を阻害したことによりその後眠れなくなり、徘徊してしまうことで転倒リスクが高くなり、付き添いや見守りが必要になることで職員側の介護負担が大きくなることがありました。また、同時に入居者様にとっても眠りが妨げられることは負担であり、昼間に傾眠して活動量や食事摂取量が低下することがありました。

【導入後の効果】
当施設では離床・覚醒・起き上がりなどの通知があった際に訪室できるため、睡眠を阻害することがなくなりました。また覚醒のタイミングでトイレへ誘導する場合、無理に起こした場合に比べて歩行が安定するため、転倒リスクを減らしつつ安全に排泄介助を行うことができています。また、入居者様の睡眠を妨げないことで睡眠の質が向上し、昼間の活動量の向上や食事摂取量の安定がみられています。

【アンケート調査】
また、排泄介助を個別ケア化した後の効果について、職員にアンケート調査を行いました。
その結果、総じてポジティブな意見が多く、
- 入居者様が覚醒したタイミングで訪室することで、誘導や排泄介助がしやすくなった
- 入居者様の覚醒通知を排泄時間と捉えて分析することで、排泄介助のタイミングを予想できるようになり、オムツ代の節減につながった
- オムツいじりによる失禁がある入居者様に覚醒通知で対応することで、尿漏れによる衣類やリネンの交換頻度が減り負担が軽減した
といった意見が得られました。
活用事例
当施設における実際の見守り支援システム活用事例をいくつかご紹介します。
① 睡眠日誌の活用
【未導入施設における課題】
当法人には、入居者様の昼夜逆転の改善の方法や、車いす上で眠っている入居者様を離床させたままにしておくことの是非など、様々な課題がありました。
【当施設における活用と効果】
そこで、睡眠日誌の活用を行いました。
早番の職員は出勤したらまずユニットの入居者様10名の睡眠日誌を確認し、昼夜逆転となって いる入居者様 には日中アクティビティなどへの参加を促進することで活動量を増やしています。
また、入居者様の夜間帯の 睡眠日誌を確認することで、その日の離床時間などを決定しています。
カンファレンスや面会の際に、入居者様のご家族に睡眠日誌を見せながら睡眠状態を報告することもできるようになりました。
また、睡眠日誌の活用によって夜間の睡眠が改善したケースもあります。
このケースでは、睡眠日誌の分析により、入居当初は夕食後すぐに就床されていた入居者様が、就床直後や朝方に覚醒状態にあることが多いことが確認できました。
このため、夕食後は共同生活室でテレビを見るなどして過ごし、21時ごろに就床するように生活習慣を変更した結果、夜間の睡眠が改善しました。

② 看取り期のケア
【未導入施設における課題】
当法人の未導入施設では、看取り期ケアの 入居者様に関する様々な課題があります。
そのような入居者様はスタッフステーションに近い部屋に移し、30分おきに訪室をして呼吸などを確認しているため、職員の肉体的負担が大きくなっています。
また、予測不能な状態変化のタイミングや、巡視時に亡くなられている可能性などが職員にとって大きな心理的負担となっています。
【当施設における活用と効果】
一方当施設では、iPad上で呼吸日誌や心拍日誌を常時確認できるため、 入居者様の呼吸や心拍の状態変化 にすぐに気づくことができ、入居者様をスタッフステーションに近い部屋に移動する必要はありません。そのため、巡回に伴う業務負担や、心理的な負担が軽減されています。
また終末期ケアにおいては、呼吸や心拍の通知設定、呼吸日誌や心拍日誌で呼吸や心拍の状態変化に気づけるため、それをきっかけにご家族へ連絡を取ることができる機会が増えました。
③ 人材確保・定着ツール
見守り支援システム の活用によって職員の業務負担が軽減し、離職率を低減させることが期待できます。
また、内部の業務改善だけでなく、施設の外部に対しても活用することができます。
見守り支援システム の導入効果をホームページ・パンフレット・求人票などに掲載することで施設のイメージアップにつながり、求職者の見学が増え、採用に結びついています。
④ 職員教育や業務手順の確認
教育や業務手順の確認にも活用しています。
- 決められた時間に体位変換を行っているか
- 就床時刻や起床時刻が早すぎたり遅すぎたりしていないか
などを見守り支援システム の日誌によって確認し、新人の業務手順の確認や職員教育に活用しています。

今後の取り組み予定
国が推進する科学的介護に対する取り組みを行っていく予定です。
1つは、見守り支援システムで得られたデータをさらに活用し、入居者様ごとの生活リズムに合わせた根拠のある個別ケアの提供に役立てていくことを考えています。
加えて、眠りSCANと連動しているカメラである眠りSCAN eyeを、転倒リスクの高い入居者様に新たに導入することで転倒リスクをさらに低減させたり、転倒事故が発生した際の検証や事故の再発防止策の検討、家族への説明に役立てていきたいと考えています。

井山 公秀
社会福祉法人あけあい会
特別養護老人ホーム グリーンヒル 施設長




