介護人材不足を乗り切るICT機器の活用事例
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今回は「眠りSCAN」を活用した見守り支援システム導入の経緯やその効果について、アサヒサンクリーン株式会社「ラ・プラス鶴が沢」の施設長である江藤さんに伺いました。ご利用者様の睡眠改善だけではなく、介護職員の業務省力化にも繋がったという見守り支援システム導入のメリットをご紹介します。
【アサヒサンクリーン株式会社 ラ・プラス鶴が沢】
訪問入浴サービスを日本で最初に事業化し、今では全国200ヵ所以上(※)に事業所を展開するアサヒサンクリーン株式会社が運営。フロアごとに心身状態に合わせたご利用者様が入居する介護付有料老人ホーム。利用定員は1F 7名、2F 18名、3F 18名の計43名。
(※)事業所数は2023年10月時点
睡眠状態の可視化・遠隔での見守りに活用できる機器を探していた
当施設では、個別ケアかつ質の高いケアを提供するために、人員配置を手厚くしています。人件費も高騰していくなか、適正な人員配置となるよう夜勤3名体制から1名削減し、2名体制にすることを目標としました。
そこでまずは、介護業務における様々な因果関係を整理してみることに。すると、次のような「悪循環」に陥っていることが判明し、この悪循環がますます夜勤業務を大変にしていることがわかりました。
- 眠れない入居者様が徘徊して転倒リスクが高くなる
- 徘徊・転倒リスクが増えることで見守りが必要になる
- 定期的な巡視が入居者様を起こしてしまう要因になる
- 入居者様が夜間に眠れないと、日中傾眠となってケアの負担が増す
そこで検討したのが、睡眠状態を可視化でき、遠隔の見守りに活用できる機器の導入です。このような機器を導入することで、入居者様の生活リズムを整えて、夜間によく眠り、日中元気に過ごしてもらいたいと考えました。
睡眠状態がわかる見守り支援システムを43床すべてに導入
当施設が導入したのは、パラマウントベッドの「眠りSCAN」を用いた見守り支援システム(以下、「見守り支援システム」という)です。2020年10月に43床すべてに導入しました。

一般医療機器 届出番号:12B1X10020000130
システム導入後、夜勤時の巡視オペレーションを変更
見守り支援システムでは、リアルタイムモニターの一覧画面に入居者の状態(睡眠・覚醒・起きあがり・離床)及び呼吸数(※)・心拍数(※)が表示されるので、夜勤者はステーションのパソコンで画面を確認しています。またモバイル端末でも確認できるため、ステーションにいなくても確認することが可能です。
※心拍・呼吸数に相当する体動から算出した推定値を心拍数・呼吸数と表現しています。


ステーションには2台のパソコンがあり、1台はこの見守り支援システム、もう1台は介護記録システムを開き、端末でナースコールを取ったり施設設置のカメラを見たりして運用しています。次の画像は、当施設の2階にある重度認知症フロアの様子です。

車椅子をご利用の入居者様に眠れない方がおり、その方をステーション近くで見守りをしています。他フロアからは共用食堂に設置しているカメラの映像が見られるので、電話連絡をしなくても、忙しそうとわかればナースコールが重なったときなど、見守りカメラを見て応援に行くこともできます。
また、見守りシステムを導入したことで、夜勤時の巡視オペレーションを変更できました。システム導入前は、訪室した際の扉の開け閉めの音で入居者様を起こしてしまうこともありましたが、システム導入後は安眠を妨げないよう定時巡視を取りやめ、ナースコールや離床センサーの対応で必要な時だけ適宜の訪室に変更しています。
見守り支援システムを活用した2つの事例
ここで、当施設における見守り支援システムの活用事例を2つ紹介します。
- 睡眠改善アプローチ
- 内服薬の調整
事例1. 睡眠改善アプローチ
当施設では、見守り支援システム導入後、入居者様の睡眠改善に向けて様々な取り組みを行いました。最初の1週目は、遅くまで点けっ放しだった電気を消して適切な時間に消灯。2週目には、アロマオイルを使用したハンドマッサージを実施。また、不眠の方には足元に掛け布団をかけたりアロマオイルを1プッシュしたりしました。3週目には、日中にしっかり動いていただくために、看護師の指導のもとゴムバンドを利用した体操なども実施。下記のグラフは、この「睡眠改善への取り組み」で特に変化の見られた3名の睡眠データです。

睡眠改善に取り組む前と比べ、青色(睡眠)部分の割合の数値がそれぞれ6〜20%増えたことを確認できました。
ここで、睡眠改善に繋げた事例をもう一つ紹介します。入居されて11年ほどになる男性(要介護2 認知症)は、穏やかな方なのですが真夜中に「おはよう」と起きてくることが増えていました。見守り支援システムの睡眠データを見てみると、思いのほかお昼寝をしていることが判明。日中の過ごし方を見直して、天気の良い日は日光浴を兼ねて屋外でリハビリをしてもらったり、お昼寝の時間があまり長くならないように歌や習字のレクリエーションに参加していただいたりするようにしました。見守り支援システムの睡眠日誌を見てみると、次のように夜間の睡眠が改善していることがわかります。

事例2. 内服薬の調整
続いて、入居して1年半ほどの80代半ばの女性(要介護2 認知症)の事例です。この女性は入居当初、帰宅願望が強く、対応に苦慮していました。内服調整を行い、夜間は比較的早く入眠されて早朝に覚醒する、そのような生活リズムでした。
一旦落ち着いたように見えたのですが、深夜の覚醒や空腹感の訴えに加えて、他の方のお部屋に行く・他の方を起こす行為で皆さんにご迷惑がかかるようになっていたのです。そこで、介護職員・看護職員・往診医・薬剤師が集まるカンファレンスの場を用意。処方内容や見守り支援システムで睡眠日誌を確認していたところ、内服後すぐに入眠していることがわかりました。そこで、「服用時間を19時から21時に変更すれば、もう少し遅い時間に入眠して朝までぐっすり眠れるのではないか」と考えました。実はその後に入院し、3週間ほどで退院されたのですが、現在はまずまずの入眠状況です。

後日、呼吸日誌を確認したところ、呼吸苦を訴えていた入院前にグラフが赤く変化していたことが判明。今後は呼吸日誌を含めた日誌をより有効活用していきたいと思っています。
見守り支援システム導入による3つの効果
続いて、見守り支援システムの導入で得られた効果を3つ紹介します。
- 職員の精神的負担を軽減できた
- 入居者様の状態変化に気付きやすくなった
- ご家族様への状態説明時に納得していただきやすくなった
※今回紹介するのはご施設様での事例であり、「眠りSCAN Viewer」で表示されるプロット図はあくまで参考です。最終的なご判断は医療従事者をはじめご施設様が行っています。
効果1. 職員の精神的負担を軽減できた
当施設では、看取り期の介護の対応もしています。見守り支援システム導入前の事例として、巡視と巡視の間に呼吸停止となり、介護職員が訪室した際に発見することもありました。ご家族様のご理解もあって問題になることはなかったのですが、入居者様の最期の時を夜間勤務中に一人で迎えてしまうことに、精神的な負担を感じる職員もおりました。
システム導入後は、リアルタイムモニターで呼吸・心拍の推移を確認して通知設定をすることで、連動のカメラを組み合わせて状態把握をおこなっています。それにより、職員の精神的負担の軽減につながりました。
効果2. 入居者様の状態変化に気付きやすくなった
見守り支援システムを導入したことで、介護職員にとっては入居者様の状態変化が「色の変化」でわかりやすくなりました。心拍/呼吸日誌は、心拍・呼吸数が多いほど赤く表示され、赤い色が長く続く場合は介護職員が看護師へ、看護師にとっては主治医への判断を求める一助となっています。

このようにシステムの心拍/呼吸日誌の画面が赤い色に変わっていると、状態変化に気付きやすいです。そして、それが入居者様・ご家族様の安心にも繋がっていると思います。
データを見るポイントは、心拍日誌や呼吸日誌を「2週間表示」にして標準状態をつかむことです。見守り支援システムはCAREKARTE(介護記録システム)とも連動しており、日々の記録画面に色で表示されているので、自然に目に入ってきて気が付きやすくなっています。
※CAREKARTEは、見守り支援システムの他にナースコール・顧客管理システムなどとも連携できる介護記録システム
効果3. ご家族様への状態説明時に納得していただきやすくなった
当施設では6ヵ月に一度、ケアマネジャーがご家族様にケアプランの説明をさせていただきます。これまでは口頭説明のみでしたが、見守り支援システム導入後は睡眠レポートを印刷して、具体的にグラフの山の高さや色の変化を見ていただいています。これらのレポートをお見せすることで、状態説明に納得していただきやすくなりました。
見守り支援システムの費用対効果の検証
最後に、当施設における「職員配置の適正化」への取り組みを紹介します。まず、職員配置の適正化のために、本社の職員が夜勤者と一緒に実際の夜勤の業務を調査。「12時間」という夜勤者1人分の労働時間を削減することで、理論上、3人から2人体制になっても運用できることの根拠を示しました。夜勤者の「忙しくて大変」という声に対しては、全ての時間が忙しいのではなく早朝と就寝前の時間帯が大変なことを示し、変則勤務を取り入れるよう検討しました。

その後、実際の調査内容をもとに、夜勤でなくてもできる介護業務の実施時間を変更。さらに、手間のかかる業務に対しては、新たな機器を導入することで業務時間の削減を見込めました。
【新たな機器の導入で業務時間の削減を見込めた例】 ・自動おしぼり機の導入(レンタル):1時間30分の削減/日 ・CAREKARTEの導入:2時間30分の削減/日 |
当施設の夜勤は、19時30分から翌朝8時30分までの12時間勤務(休憩1時間)です。この夜勤者を1名減らし、忙しい時間帯である6時からの「早朝勤務」と21時まで残る「遅番勤務」の時差出勤を新たに導入。日勤帯で変則勤務を組み直しました。このような「職員配置の適正化」への一連の取り組みにより、当初の目標であった夜勤3名体制から2名体制へ職員配置の変更を実現。
補助金が出たこともありますが、見守り支援システムをはじめ、ナースコールシステムやCAREKARTE(介護記録システム)等ICT機器への投資は1年半ほどでほぼ回収することができました。
さらなるデータ活用と他施設への情報発信に取り組みたい
入居者様の生活・睡眠の改善を軸としたケアの質を向上させることで、職員の業務負担の軽減や生産性の向上に繋げることができました。また入居者様に関しては、夜間の睡眠状況が改善することで日中の覚醒も良くなり、生活リズムが整ってきました。日勤帯の職員にも余裕が生まれ、入居者様とゆっくり関わる時間も増えています。その結果、レクリエーションの開催頻度や参加率も高まり笑顔が増えました。悪循環に陥っていた状況が改善し、本来あるべき姿、笑顔あふれる施設に近づいてきたのではないかと思います。
「ラ・プラス鶴が沢」は20周年を迎える年季の入った施設で、開設当初より勤務している職員も多いです。年齢の高い職員もいますが、時代の波に乗り遅れることなく見守り支援システムや介護記録システムなどのICT機器を導入し、振り回されることなく活用することができました。今後も入居者様の睡眠の改善でさらなるサービス向上を目指し、データの活用と他施設への情報発信に取り組んでいきたいです。
江藤 かおり(えとう かおり)
アサヒサンクリーン株式会社 ラ・プラス鶴が沢 施設長